第3回:「人間の体は複雑だ」
第3回のコラムは前回の続きです。今回も2人で少しずつ健康について考えを巡らせていきます。
朱田:川尻さんとの出会いから6年経って、だいぶ僕の健康に対する知識も増えたし、変わりました。
川尻:そして、沼にハマっていったんですよね?(笑)
朱田:そうですね(笑)もし、川尻さんとの出会いがなかったら、今頃もっと楽な整形外科医でしたよ。「靭帯の位置が2ミリ違う」とか『軟骨が削れているから膝が痛いんだ』とか、それだけで治療を考えていれば良かったんだから。
川尻:あはははは(笑)その沼というのは、どんなものでしたか?
朱田:例えば、体の仕組みを理解したり、痛みなどの問題を解決する為には、靭帯の位置を直すといった構造的な問題解決だけでなく、神経と脳の働きや感情が生まれる仕組みを理解しなくては本質的な問題は解決しないことに気付かされました。これらの深くて複雑な内容を、患者さんに理解してもらうには、どう伝えたら良いんだろう?という悩みが大きいです。
川尻:我々の体はコンプレックスシステム(複雑系)と呼ばれるように、非常に複雑なものなんですよね。原因と結果が、単一的にぴょんと結びつくようなものではない。それなのに、人間は複雑なものをシンプルにして理解することが得意だから、体に対してもその思考パターンを当てはめてしまった。その結果、今、おかしな事が起きている。複雑なものは、複雑なんだと理解することが大事だなと思っています。
朱田:そうなんです。その複雑さを知ることによって、「実は、自分でも健康になるためにいろんなことができるよね」というのが見えてくると思います。世の中には民間療法が溢れていて、次々に新たな治療法や商品が出てきては消えていますよね。それを世の中の人は、完全に正しいとは信じていないかもしれないけれど、「もしかしたら意味があるのでは?」とうっすら思っている人もいる。そんな方々に、僕らが話す内容を聞いてもらいたい。きっと、この治療方法の意味って、本当はこういうことなんじゃないか、とか、もっと本質的な解決方法があるんじゃないか、ということに気がついてもらえると思います。
川尻:例えば、健康に良いと思う○○を、毎日食べているとするじゃないですか。
でも、「○○を食べなければ、健康でいられない!」と思ったら、それはマイナスに働くこともある。 タバコは医学的に健康によくないというのは証明されていますよね?でも、
タバコが本当にその方にとってストレス解消になっていて、「ああ、美味しいな。幸せだな。」と思える時間を作るのなら、プラスに作用することもある。
個人の単位でいうと、一面的に「○○が健康に良い / 悪い」というのは判断しにくいものなんです。だからこそ、どう感じるか?がすごく大事で、ご自身で自分の健康ために、何をどう選んでいくか?という基準を持ってもらいたい。その判断基準というのは、みなさんが思っているそれとはかなり違うと思います。きっと、目から鱗だと思います。
ー
健康の本質を知れば、正しいアプローチが見えてくる
ー
朱田:世の中には、自分が思っているよりももっと様々な健康へのアプローチの仕方があります。健康の本質を知って、広い目で見られるようになると、自分の手の中に選択肢が増えて、
こうでなくてはならないという「思い込み」から解放されると思うんです。そして、何をしたら良いかが、もっとクリアになると思います。
川尻:みなさんが持っている健康の知識というのは、主に昔ながらの考え方をベースにした医療従事者からのものが基準になっていると思うんですよね。
しかし、エビデンスと呼ばれる医療ベースの基準は完璧なものではなく、複雑な人体の一部分を見ているに過ぎません。その外にはヒトというシステムや脳、神経、痛みなど様々なことが複雑に絡み合っている。
朱田:商業化された健康ビジネスや広告の中には、科学的には明らかに誤った知識や迷信も溢れています。だから、健康や生命の本質的な理解をすることで、『実はそうだったのか!」という、発見をたくさんしてもらえると思います。
川尻:体って、複雑だけど面白いですよね!
朱田:そうなんです。この面白さと大切さを、お互いのプロフェッショナルな立場から、この雑談の中で伝えて行けたらと思います。